
逆さ水の意味と正しい儀式のやり方
逆さ水という言葉だけでは、いったい何をする儀式なのか分からない人も多いでしょう。そこでまずは、逆さ水の意味と正しいやり方についてご説明します。
逆さ水の意味
逆さ水は「ぬるま湯を逆の順番で作ること」をいいます。
ぬるま湯を普通に作るときというのは、「お湯に水を足して作る」のが一般的です。
しかし、逆さ水を行うには「水にお湯を足してぬるま湯を作る」のです。
逆さ水は、一般的な方法の「逆の行動」ということになります。
ちなみに逆さ水は、お通夜のときに行われる「湯灌(ゆかん)」という儀式の中で使う水になります。
※湯灌(ゆかん)とは?
逆さ水を使って故人の体を拭いて、清める儀式のことを湯灌といいます。ぬるま湯を使うので、死後硬直した体を柔らかくさせることができ、遺体を棺に入れるときに納めやすいという目的もあります。
湯灌は葬儀社や専門の人がやってくれることが多く、現代では遺族がやるということはほとんどありません。
逆さ水の正しいやり方
それでは逆さ水のやり方について簡単にご説明します。
まず遺体を棺に納める前に、逆さ水を使って体、髪の毛などを拭いて清めます。これが先ほどお伝えした「湯灌」です。
湯灌は故人がこの世にいる間に入れる最後のお風呂なので、亡くなった人に使うぬるま湯は逆さ水を使うことになっています。
水を用意して、そこにお湯を足してぬるま湯を作り上げて、そのぬるま湯を使って体を拭いて清めます。
遺体に逆さ水をかけるときは、左手で柄杓を持ち、そこにぬるま湯を汲んで、足元の方から頭に向かっていきます。
逆さ水はお通夜のときに行う場合もありますが、病院で故人が亡くなった場合には、アルコールを使って「清拭(せいしき)」という湯灌を行うケースもあります。
逆さ水で湯灌を行う他にシャワーや入浴を行う場合もありますが、どんな方法で行う場合でも生前の穢れや痛み、苦しみなどを拭い去り、安らかに旅立ってもらうという意味合いについては変わりません。
湯灌は仏教による儀式ですが、神道の葬式でも同じように遺体を清める行為が行われます。
この場合、湯灌ではなく「沐浴」と呼ばれるので、宗教による呼び方の違いに注意しましょう。
宗教的な儀式としてだけでなく、湯灌にはお湯で体を温めれば死後硬直のスピードが緩まるので、遺体が棺に納めやすくするという説もあるようです。
また、現在のように死後の処置が十分に行えなかった頃には、遺体から出る分泌物を湯灌で落として悪臭を防ぎ、遺体を清潔に保つという効果もあったのではと言われています。
子供の出生時には産湯で体を清めますが、湯灌をすることで亡くなった人が再び生まれ変わる、魂を復活させるという意味合いも込められていたそうです。
近年では、湯灌を行うのは葬儀社や専門の業者ということが多いですが、比較的近い時代まで故人にしてあげられる最後のこととして遺族が湯灌を行っていました。
地域によっては遺族だけでなく近所の人が行うこともあったようですが、今はほとんど行われていません。
遺族が希望した場合は、葬儀社や専門業者のスタッフが湯灌を行う場に立ち会うこともできますし、一緒に湯灌をすることもできるので、お別れの儀式として湯灌したいという人は問い合わせてみましょう。
逆さ水は「逆さ事」の1つ
日本には「逆さ事」という習慣があります。その1つが逆さ水です。
逆さ事とは、葬儀のときに行う儀式や物事などを一般的な順番とは「逆の順番」で行うことをいいます。
逆さにすることで「非日常的」という意味を持たせ、「死の領域」だということをアピールするのです。普通の順番というのは、この世で人間が生きているという「日常的な領域」になります。
ですから、逆のことをして死を認識させるという意味で、逆さ事は行われます。
では、逆さ水以外の逆さ事についてご紹介しましょう。
・死装束は左前にして着せる
・遺体の頭は北枕にする
・枕元に逆さ屏風という、絵が逆になった屏風を飾る
・和服と洋服は裾を頭の方にして襟を足の方にする
・葬儀場から出棺して火葬場に向かったら、その順番と逆の道順で買える
・あの世とこの世というのは、時間が反対になっていますので、生きている世界が夜であれば、あの世は昼ということになるので、お通夜を夜に行います
逆さ水などは日常生活で行わない
逆さ水などの逆さ事というのは、「縁起が悪い」と言われていますので、日常生活でやらないように気を付けましょう。
あの世とこの世を区別するために逆さ事をしているので、生きている人間が逆さ事をすると、まるで死んでしまった人の行動に思えるのです。
ただ、縁起が悪いといっても、死人に対して軽蔑や忌み嫌うという意味ではありません。
あの世とこの世の区別を、しっかりとするという目的で逆さ事を行っています。これは、日本で古くから行われている風習なので、逆さ事について親や祖父母などから話を聞いたことがあるという人も多いでしょう。
ただ、日常生活では縁起が悪いと言われる行為なので、やらないように意識してください。
中でも着物や浴衣を着るときに、左前なのか右前なのか分からなくなってしまうという人が多いのですが、左前にすると死装束になってしまうので間違えないように注意してください。
その他に、「北枕で寝ると縁起が悪い」と言われていますが、こちらも多くの人が言い伝えを聞いたことがあるでしょう。
もちろん北枕になってしまう部屋の状態であれば、それは仕方ないのですが、なるべくなら北枕にならないように意識するといいでしょう。
逆さ水は花にも使われる方法
実は花を新鮮な状態でキレイに保つには、「水あげ」にポイントがあります。そしてそのやり方が、逆さ水なのです。
切り花を買ってきたとき、花瓶に入れて飾りますが、そのときに切り花に行う処理を「水あげ」といいます。花の種類によって異なりますが、逆さ水を葉にかけることで水分が蒸発しにくくなります。
仏壇に季節のお花を供えて故人に楽しんでもらいたいという時、花の種類に適した水あげ方法を知っていると綺麗なお花を長く楽しめます。
水中で茎を切る方法はよく知られていますが、この他に切るのではなく折る、お湯を使うといった方法などもあり、逆さ水もそのうちの一つです。
お花を逆さに持ち、葉の裏側に水をかけるだけなのでしおれて元気がなくなった花が復活することもあります。
葉を水につけても腐らない、葉が厚めの植物に適した方法ですが花が小さな場合は花が濡れないよう、葉だけに水をかけるために霧吹きなどが用いられることもあります。
