「荼毘(だび)に付す」という言葉を聞いたことがあるかと思います。なんとなく「死」と関係していることはイメージできるでしょう。ただ、実際に荼毘に付すという言葉を使う機会は少なく、本来の意味や言葉の由来などを知っている人も少ないようです。

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荼毘の意味と言葉の由来
荼毘とは「だび」と読みます。言葉で聞くことはありますが、文字にすると初めて知ったという人も多いでしょう。
では、荼毘の意味や言葉の由来を見ていきましょう。
荼毘の意味とは?
「荼毘に付す」という言葉は、亡くなった人を火葬するという意味があります。ただ、現代では火葬だけではなく「埋葬」することに対して、荼毘に付すと呼ぶことが多いです。
埋葬とは、元来「土葬」のことを指していますが、一般的に火葬をした後に遺骨をお墓などに納めることを埋葬とも呼んでいます。
普通の会話の中で「亡くなった人の火葬が終わった」というセリフが出てくると、なんとなく遺体を焼却したというイメージが出てきてしまい、あまりにもリアルな感じがします。そんなときに、「荼毘に付す」という言葉を使えばオブラートに包んだ言い方ができるというわけです。
中には荼毘に付すという言葉を「葬儀が終わった」という意味だと思っている人も多いのですが、これは間違いです。
荼毘を使った色々な表現方法
一般的には「荼毘に付す」と使われますが、「荼毘する」、「荼毘に付する」という表現を用いることもあります。
自分の家族の火葬を行う際は「荼毘に付す」、家族以外の場合は「荼毘に付される」と言い換えたほうが丁寧で、敬意を表すことができます。
「付す」という言葉は「付する」の古い言い回しなので全く意味は同じ、他に「附する」、「附す」という書き方もあり、どちらを用いても間違いではありません。
「荼毘する」という表現を使えるのは人間だけでないので、ペットの犬や猫などに使うこともあります。
昔は亡くなったペットを火葬する家庭はそれほど多くありませんでしたが、最近はペットのための火葬場もあるほどで、ペットを家族の一員として最後まで見送る人が増えてきたと言えます。
亡くなった後に埋葬するのではなく火葬する場合は、ペットに対しても「荼毘に付す」という言葉を使って表現することが可能です。
荼毘という言葉の由来
荼毘とは、パーリー語の「jhpeta」とサンスクリット語の「dhyapayati」という「火葬・燃やす」という意味を持つ言葉から生まれました。
パーリー語とは上座部仏教の経典で使われていた言葉で、サンスクリット語は大乗仏教の経典で使われていた言葉です。
仏教では、お釈迦様が亡くなったときに香料の薪を使って火葬をしたことから、火葬を正式な葬儀方法として用いることになりました。そして、荼毘に付すという言葉が火葬を表すものとなりました。
仏教徒だけに使われる言葉なので、その他の宗教の人が荼毘に付すという言葉を使うことはありません。
日本に荼毘に付すという言葉が伝わったのは、仏教の伝来と同じ時期で「アーリヤ人」の風習だった火葬も一緒に伝来しました。この時期に、日本の葬儀方法が大きく変化していきます。
火葬だけが荼毘に付すという意味になる?
これまでの説明で考えると、火葬だけが荼毘に付すという意味になると思われるでしょう。ただ、日本ではほとんどが火葬を行っているので、火葬をすることが荼毘に付すという意味だと固定されました。
火葬しか認めないというわけではないのですが、やはりほとんどの地域で火葬をすることがルールとなっていますので、日本では埋葬といえば火葬となり、火葬のことを荼毘に付すという言葉で表すようになりました。
昔の日本は土葬をしていたこともありますが、火葬の文化が入ってきたことにより衛生的な問題や様々な影響で火葬が主な埋葬方法となりました。そして仏教の伝来や火葬の文化が広まったことで、火葬=荼毘に付すというイメージが固定したのです。
なぜ火葬をすることになったのか?
古代インドでは、火葬、水葬、土葬、風葬という4種類の葬儀方法を用いていました。中でも火葬が1番多く使われており、故人が体に対して未練を断ち切り、煙と一緒に天に上ることで成仏がスムーズに行えると考えられていました。
ですから、4つの葬儀の中でも火葬が最上位と考えられていました。そのため、火葬をすることが一般的になっていき、日本にも広まっていったのです。ちなみに、この考えは「ヒンドゥー教」のものであり、キリスト教やユダヤ教とは異なります。
火葬の種類は国によって異なる
火葬がメジャーな埋葬方法となっても、国によってやり方が異なります。
例えば日本であれば、火葬をしてから遺骨を収骨して骨壺に入れて、その後お墓に納骨をします。そしてインドでは、遺骨を収骨するという文化がなく、灰になった遺骸は川に流されることになります。
また、日本では火葬の際の臭いを避けるために煙を出さないような火葬炉に変わっていっていますが、インドでは今でも屋外で火葬を行っているようです。
火葬による煙で魂が天に上り成仏したと考えるインドでは、火葬炉のような場所でなく屋外で火葬を行う方が宗教の教えに適っている、早く成仏させてあげるためには煙が高く上がる屋外の方が良いという考え方なのでしょう。
魂が成仏すれば遺体はそれほど重要ではないということもあり、収骨せずに灰をそのまま川に流してしまうという風習になっているのかもしれません。
このように基本的な火葬をするという部分は同じであっても、その後の流れや作法は国によって異なります。
荼毘葬(だびそう)とは?
荼毘葬という言葉がありますが、これは通夜・葬儀などを行わずに火葬だけをするという葬儀方法のことです。最近では「直葬」と呼ばれているのですが、荼毘葬と同じ意味になります。
これは葬儀を簡略化して、通夜や葬儀を行わずに火葬をして納骨するだけというとても簡素な葬儀方法です。様々な事情(身寄りがない・金銭面で苦労している)で、荼毘葬を行う人もたくさんいます。
仏教以外では「荼毘」のことを何と呼ぶ?
荼毘に付すという言葉は仏教のもので、他の宗教ではどのような言葉になるのか?
キリスト教:土葬で埋葬するのが基本ですが、日本では火葬になります。荼毘に付すに該当する特別な言葉はありません。
人の死に関する言葉には宗教による違いがあり、意味と宗教による使い分けを知っておかなければ個人や遺族に対して失礼に当たることもあるので注意しましょう。
日本の場合、キリスト教であっても火葬を行うことになりますが、だからといって荼毘という言葉が使えるわけではありません。
「荼毘=火葬」だけでなく、仏教でしか使われない言葉、仏教徒に対してだけ使える言葉だということもあわせて覚えておきましょう。
「荼毘」と「葬斂」の違い
荼毘と似た言葉に「葬斂」という言葉があります。
葬斂には「悲しみを抱えながら遺体を棺に納めて葬る」という意味で「そうれん」と読みます。
荼毘は火葬する、埋葬するといった儀式のことを指すのに対して、葬斂は亡くなったことを悲しむという気持ちまで含む言葉になっている点が異なるので使う場面には気をつけましょう。
故人との別れを惜しむ気持ちを込めて使う時には「葬斂」、火葬が行われた、埋葬が行われたと言いたい場合には「荼毘」を使います。
荼毘の意味を理解して厳かに葬儀を行う
荼毘に付すことはとても悲しいことです。言葉の意味を理解して、厳かに葬儀を行い火葬を見守れるように心がけておきましょう。